インタビュイー:Lenkele
インタビュー:苦以忧


Kafrobeat / Lenkele
背景ヴィジュアルのパン・アフリカン・カラー(赤・緑・黄)は、Afrobeat風の楽曲と呼応している。
アフリカやカリブ地域の黒人たちが生み出してきた、きわめて創造性に富むリズムやスタイル、そして数多くの音楽作品は、アメリカのブラック・ミュージックほど広く脚光を浴びてきたわけではない。だが、それらもまた、現代のポピュラー・ミュージックを育んできた重要な土壌のひとつである。Afrobeat1 にせよAfro-Cuban Musicにせよ、こうした音楽は、大編成のバンドによる生演奏やその録音によってこそ、幾重にも重なり合い、呼吸するようにうねるリズムの感覚を十全に伝えることができる。だからこそ、コンピュータを中心に制作が行われる DTM2環境において、生楽器の演奏を基盤とするこれらのスタイルが主役として扱われる機会は、決して多くない。
しかし、2025年の「ボカコレ(Vocaloid Collection)」で出会った、濃厚なキューバ音楽の色彩をまとった一曲「Ruego del Fuego」は、そんな私の認識を鮮やかに覆した。合成音声という文脈のなかで、ラテンのグルーヴをここまで自然かつ本格的に表現できるクリエイターがいることに、私は驚かされたのである。そこから辿るようにして出会ったのが、日本のボカロP・Lenkeleによる初のソロアルバム『Kafu Meets Love Beats』(以下『Kafu Meets Love Beats』)だった。そして、その驚きはほどなくして、さらに大きな衝撃へと変わった。本作では、ヒップホップやNeo Soul(ネオ・ソウル)をはじめとするブラック・ミュージックの語法が自在に使いこなされ、生き生きとした形で音楽へと落とし込まれている。それだけではない。収録曲「Kafrobeat」では、先に触れたAfrobeatというスタイルにも踏み込み、歌声合成の領域でこの比較的ニッチな音楽性を再現しようとした、おそらく最初期の試みのひとつとなっている。さらに2026年に投稿された「Bongo Bronco」では、より野性的で奔放なアプローチによって、再びこのスタイルに挑んだ。Lenkeleの関心はそこにとどまらない。SNSではトリニダードのCalypsoをたびたび紹介し、ギターではBossa Novaの名曲「Chega de Saudade(想いあふれて)」を演奏している。こうした足跡を追っていくと、このクリエイターは今なお自らの創作領域を押し広げながら、世界各地の音楽を結ぶ、彼自身の「音楽地図」を描き続けているように思える。
「ローカリティ」という視点から見れば、こうした実践はなおさら興味深い。アフリカやラテン音楽の魅力は、その土地固有の風土や文化的儀礼、そして民衆の演奏伝統に深く根ざしている。だからこそ、そうした強いローカリティを帯びたグルーヴを、大編成のバンドによる生演奏という本来の文脈から切り離し、個人的なDTMの方法論や合成音声の音楽へと移し替えることは、ひとつ間違えば、表層的な地域性の記号を貼り付けただけの表現に陥りかねない。しかしLenkeleは、特定の地域性を示す記号をただ型どおりに模倣しているわけではない。むしろ、それぞれの音楽が歴史の流れのなかで受け継いできた、本質的な要素とは何かを自らの方法で理解しようとしているように見える。そして現代のデジタル・ツールを手に、自らのデスクの前から、遠い土地の風土や民族音楽を一度解体し、あらためて組み立て直しているのである。
日本の音楽クリエイター、Lenkele。ブラック・ミュージックを軸に、Afrobeatやラテン音楽などの影響を織り交ぜた楽曲を制作している。
苦以憂(以下、U):初めて作品を聴いたのは「2025ボカコレ」の「Ruego del Fuego」です。歌声合成で Afro-Cuban3 の作品を見たのも初めてで、しかも扱いがとても成熟していました。そこで「おぼろ」の名を検索すると、以前に Afrobeat の作品も出していたとわかり、また驚きました。

Ruego del Fuego / Lenkele
アフロ・キューバン音楽への探索
Lenkele(以下、L):音楽制作を最初にやったのは2022年でした。コロナ禍や音楽サブスクサービスの普及により、一般の方でも音楽制作やインターネットでの音楽活動に参入しやすくなっていたと思います。 それまでは音楽をやっていてもそういう形で残るものを作るという発想がなかったのが、急に身近に感じられるようになり、DAWを購入し、インターネットでの活動をはじめた、という経緯でしたね。
でも制作を始めてからしばらくはアフロ音楽のような音楽を作っていませんでした。好きではあったんですけどね。 ああいう人間的な揺れのある音楽はどうしてもDTMとは相性が悪いなと思っていたので。しかし好きなものをどうしても作りたいと思い、DTM技術も少しずつ成長してきたところで思い切って作ってみたのが2025年発表の「Kafrobeat」でしたね。
どのようにというと、あんまり覚えてないのですが、最初に取り掛かったのはやっぱり基盤となるのはdrumsやbassだと思います。trumpet以外は基本的に打ち込みなので、MIDIのタイミング調整とかは気を付けてやっていると思っています。参考にした曲は、Fela Kutiのような超王道のところはもちろんなのですが、Commonの「When We Move」という曲でした。アフロビートの上にラップが乗るということがやりたかったんですね。
L:正直に言うと、あまり面白みのない回答になってしまうかもしれませんし、批判もあるかもしれませんが、この種の音楽と合成音声との間にいわゆる「相性」や「化学反応」のようなものは、個人的にはあまり感じていません。もちろん、聴き手がどう感じるかは分かりませんが。もちろん、もし「化学反応」を感じられるような作品が作れれば、それに越したことはありませんが、自分としてはまだまだ勉強や模索が必要だなと思っています。
自分の中で最優先しているのは、あくまで本格的なラテンやアフロの音楽を作ることです。そのため、合成音声については、単純に手元にあるものを使っています。現在は可不、IA(English版)、羽累を持っており、無料音源として知声も導入していますが、まだ使ったことはありません。最近はIA(English版)をよく使っていて、直近の楽曲「Bongo Bronco」でも使用しました。良い意味で声に強い個性がないため、さまざまなジャンルに馴染みやすいと感じています。英語はもちろん流暢ですが、調声次第で日本語も歌えます。ただし英語訛りにはなりますが、その訛りがむしろ格好良く、ラップとの相性は良いと感じています。
また、制作後の心境の変化としては、ボカロ6というフィールドではこういった音楽はあまり受け入れられないと思っていましたが、「Kafrobeat」は予想以上に大きな反響がありました。もしこうした音楽が受け入れられるのであれば、自分の作品を通して、Fela KutiやBuena Vista Social Club7のような、自分の大好きなミュージシャンを知ってもらえたら嬉しい、というのが大きなモチベーションの一つになりました。

Fela Kuti
ナイジェリアの音楽家
出典:ウィキペディア

Buena Vista Social Club
キューバの音楽グループ
出典:ouest france
U:わかりました! その考えはよく理解できます。少し前、中国語 Vocaloid の界隈でも、「キャラクター論」か「道具論」かという議論がありました。
L:その議論は、日本でもよくSNS上で見られるトピックですね。 自分はキャラクター性を打ち出す音楽、ツールとして捉え自分の好きを追求する音楽、どちらもあっていいと思いますし、その多面的な魅力がボカロシーンの隆盛を支えていると思います。
L:その通りですね。この2つが自分の現状の創作へのスタンスです。
二
U:「Kafrobeat」の歌詞はアフリカ文化と日本のネット文化をコラージュ的に融合しますが、音楽ではその傾向は目立ちません。理念は何でしょう。できるだけ本来のアフリカ・ラテンの音を再現したいのか、意識的に融合するのですか。
L:「本場の」アフリカ音楽やラテン音楽をできるだけ忠実に再現することを目指しているというところに最も焦点を当てていますね。これは自分の他の楽曲にも言えることです。
U:私も似ていて、歌詞の内容よりグルーヴと音楽性を気にします。今は歌詞も以前より重視しますが、内容が何かより、旋律に合うかが大切だと思います。中国語は声調が複雑で、曲へ合わせるだけでも難しいです。
L:声調は中国語の大きな特徴ですよね。言語の違いが制約になるということは大きいですが、同時に魅力になりうる部分でもあるのが面白い部分だと思います。
U:「Kafrobeat」の曲名も歌詞も好きだと伝えたいです。「Roy's Anthem」の歌詞も誠実で感動的で、音楽によく合っていると思います。
L:「Roy's Anthem」は逆に、最大限メッセージ性を重視して作った作品でした。なにせRoy Hargroveという尊敬するトランペット奏者へのラブレターのような作品でしたからね。 そこでも、韻や語感の部分を重視して書いたことは一貫しています。

伝説的なトランペット奏者 Roy Hargrove
出典:downbeat

Roy's Anthem / Lenkele
また「Kafrobeat」と「Bongo Bronco」を例にすると、Afrobeat の打楽器の特徴を重点的に吸収し、ギターと管楽器の合奏を弱めて、相応の置き換えをしたように感じます。例えば、特徴的な管楽合奏を一本のトランペットで代える。Fela の音楽とはもちろん違いますが、Afrobeat だと聴き取れ、しかも独自の特徴があります。この理解で合っていますか。

Bongo Bronco / Lenkele
L:アフロ音楽10の本質的な要素というと一口に表すとどうしても難しく、また、自分が未だ掴み損ねているところでもあります。本質を理解したとは到底言えません。なので、好きな要素を挙げるということに留めさせてください。
とてもシンプルなメロディ、そして、もはやメロディとも言えないような言葉でのコールアンドレスポンスというのが、自分がアフロビートやラテン音楽(ひいては多くのルーツ的ブラックミュージック)に感じている魅力です。それゆえに、歌唱力や飾り気といった部分はもっとも削ぎ落とされることになります。それぞれが好きなような叫び方で、気ままに声を出して楽しめるという部分が楽しいです。また、そういったばらつきのある声達が重なったときにもっともエネルギーのある塊となって聴こえるような気がします。音程やリズムが合ってしまう合成音声でそれを再現するのは難しいですが、あえてばらつかせたりなど工夫はしています。
他には、メロディはシンプルに、コードも基本的に1,2個のコードに留めて、打楽器などを交えた音の粒たちが互いに絡み合うことでグルーヴを生み出し、それが絶えず繰り返されるという部分に快感を覚えます。 ここは、ポップス音楽というシーンに落とし込むのはとても難しい部分だと思っています…。聴いてる側が飽きたりしますからね。ボカロシーンにおいては、派手で、刺激がある音楽が好まれるというのも感じますから。それを飽きさせずに聴かせられているかは聴いてる人に聴かないとわかりませんが、尺のコントロールは自分なりに飽きないような長さに留めたり、本格的なアフロビートよりもキメ11を多めに入れたりして調整しているつもりです。1曲で20分もやったりすると、さすがに飽きるでしょうね(笑)
U:そのキメは、「Kafrobeat」の2:40で、すべての楽器がシンコペーションを一斉に奏でる部分でしょうか。
L:の認識で合っています!英語では「break」ですね。ここまで大げさに音を止めずとも、ドラムのフィルに合わせて全部の楽器で同じことをやる部分、みたいな感じです。
そして演奏音源に関する部分は常に悩んでいます。ギターやホーンセクションはどうしてもデジタル音源には限界があるように思え、下手な打ち込みを入れることで楽曲のクオリティをむしろ落としてしまうということに繋がります。しかし全パートの生演奏依頼なんてしていたらお金がいくらあっても足りないですからね…。入れたくても入れられないみたいな経済的、環境的な制約の中でどうにかやりくりしています。 ただ、ギターは特にアフロビートにおいてはグルーヴを作る核だと思っているので、本音を言うと入れるのが理想です。 現在練習中なので、いずれ実践投入できるといいなと思います。
U:「Kafrobeat」の、とても質感のよい弦楽器も気になります。コラですか。
L:あの弦楽器はコラ(Kora)ですね。よくご存じですね!西アフリカの民族楽器ですね。そこに言及してもらえたことがなかったので嬉しいです。

コラ Kora
出典:上海音楽学院情報公開サイト
U:光栄です!ギターと管楽合奏は DTM で難しいとのことですが、ドラムはとてもリアルに聴こえます。音源ですか、サンプルですか。特に「Kafrobeat」のイントロと本編、「Ruego del Fuego」「Bongo Bronco」について伺いたいです。
L:ドラムに関しては、それらの楽曲に限らずほとんどすべて、有名なドラム音源である「Addictive Drums 2」を使用しています。 そして民族打楽器に関してはNative Instruments社の「Cuba」「West Africa」を使用しています。コラも「West Africa」収録ですね。 コンガやボンゴ、ティンバレスなどの民族打楽器の多くが「Cuba」に収録されていて、重宝しています。「West Africa」にはジャンベが入っていますね。 いずれも定番なんじゃないかと思います。 その他の音源を持っていないので興味はありますが、まだ余裕がなく変えていないですね。
U:『Kafu Meets Love Beats』についてあと二つ。「Blue Train Refrain (in the rain)」はサンプリングではないですよね。Coltrane のサックスをトランペットへ置き換えたのでしょうか。
L:これはColtraneのBlue Trainの音源をサンプリングしたわけではないですね。 おっしゃる通り、ミュートを付けてトランペットで吹いています。

Kafu Meets Love Beats
Lenkele の初アルバム
2025
10tracks, 28mins
U:「Seaside Night Suicide」の最後が突然切れるのは意図的ですか。
L:「Seaside Night Suicide」のエンディングについては、明確に参照曲があります。 D'Angeloの「Untitled (How Does It Feel)」ですね。 テーマの繰り返しが徐々に音量が大きくなっていって、ある瞬間に唐突に切れるというあまりに美しい幕切れにずっと惹かれていました。「Seaside Night Suicide」、つまり入水自殺の曲において、これが効果的な演出になると思って用いました。
U:D'Angelo だったんですね。本当に衝撃的に美しい曲です! Common と Seun Kuti の「When We Move」の話で、Common が2000年のアルバムですでに Roy Hargrove と Femi Kuti と共演していたと気づき、不思議に感じました。今日は Tony Allen の「Every Season」も聴きました。Fela の元ドラマーも、その死後、Afrobeat とヒップホップの融合を試みたのですね。私には Femi Kuti、Tony Allen などの発展者の曲は、Fela よりポップに思えます。Fela の長い曲より、後のポップ化、融合化した Afrobeat の影響が大きいですか。
L:その通りです!Commonのアルバム『Like Water for Chocolate』の「Time Travelin'」ですね。 何度も何度も聴き返した大好きな作品の1つです。関連ミュージシャンを聴いていくことが多いため、こういうことはよくあります。実はそこ繋がってたのかと、後から知って驚くことも多いです。
近年のアフロビートは、グルーブ感はタイトで音質もくっきりしているし、サンプル音源なども多く使うので、Felaのそれとは結構変容していると感じますね。 自分もDTM制作のため、近年の音源を参考にすることの方が多いです。
Nubiyan Twistなどはその代表でしょうね。現代的なセンスと、アフロビートの本来持つ魅力を最もうまく融合しているグループではないかと思います。私の大好きなトランペット奏者である黒田卓也さんもそういった方だと思います。対照的にNewen Afrobeatなど、伝統的なスタイルのアフロビートをやっているバンド12もありまして、こういうバンドにしかない魅力もあるなあと感じます。
U:なるほど!Note で薦めていた奏者やバンドですね。今はより明確に感じられるので、また聴きたいです。Roy Hargrove の「Rich Man's Welfare」も思い出しました。かなり Afrobeat の曲だと思いますが、彼にはこういう作品は少ないのでしょうか。
L:Roy Hargroveの「Rich Man's Welfare」もアフロビートなテイストの曲ですね。 「Bongo Bronco」を作曲するうえでかなり影響を受けた曲です。 とはいっても、おっしゃる通り、彼が制作したアフロビートの曲は他にあまり浮かばないですね。 Roy Hargrove名義での活動ではオーセンティックなジャズを、RH Factor名義ではヒップホップやファンクを主にやっていた印象が強いです。
U:ほかに、アフリカやラテン音楽にどう出会い、知っていったのでしょうか。
L:自分の場合は、アフロ音楽に関しては、黒田卓也さんのアルバム『Fly Moon Die Soon』や、彼のアフロビートバンドであるaTakの『Zasu』からですね。彼の演奏するジャズやヒップホップに夢中でよく聴いておりました。そして彼はコロナ禍を機にYoutubeチャンネルを始めたのですが、動画の中でよくアフロビートという音楽を彼がやってきたことや、その魅力について時折話していました。そんな中でリリースされたのが上述の2作品で、こんなに楽しい音楽がまだあったのかと思ったのを覚えています。
ラテン音楽に関しては、大学時代にジャズビッグバンドに在籍しており、その時に演奏したのが出会いでした。それをやっていなくとも、ラテン音楽はアフロビートほどマイナーなわけでもなく、ポップスのシーンでもラテンテイストの音楽は多いので耳にする機会は多かったとは思います。しかしどうもその時はのめりこむほど魅力を感じていたわけではありませんでした。しかし数年前に『Buena Vista Social Club』というラテンの定番を改めて聴き返した時に、自分は雷に打たれたかのようにこの音楽に惹かれました。アフロビートを通じ、アフリカをルーツとする方々の音楽に共通する何かを感じ取れたんでしょうね。それ以来、ラテン音楽が大好きになりました。「ラテン→アフロ」ではなく「アフロ→ラテン」という経緯で好きになるのは少し珍しい気がします。
U:アフリカを先に好きになり、次にラテンという人には初めて会いました。最近 Mighty Sparrow もよく聴いていますね。私の知る限り、Fela の Afrobeat は Highlife13から強い影響を受けており、その Highlife もすでに1950年代にはカリプソの要素を取り入れ、融合させていた。Afrobeat をたどって Mighty Sparrow に出会ったのですか。
L:カリプソに関しては、アフロビート経由ではなく、ラテンアメリカ地域やカリブ海域の国々の音楽をもっと知りたいという思いからですね。ラテン音楽と言っても、その国によって細かく分かれています。 自分はキューバのスタイルくらいしか本格的に聴いたことはなかったのもあり、もっと色んな音楽を知りたいと思いました。最近、ふと思い出してSonny Rollinsの代表曲である「St. Thomas」を聴き返し、やはり昔は感じなかったような魅力をこの楽曲から感じ取りました。この曲のルーツがカリプソとのことだったので、カリプソを聴いてみようと思った次第ですね。Mighty Sparrowは近年聴いたなかでも、最も衝撃を受けたミュージシャンの一人になりました。

「カリプソの王」
Mighty Sparrow
出典:mightysparrow.com
三
U:制作に影響した人や作品を惜しまず共有し、Note では発想も話しています。X で「また Afrobeat を好きな人が増えてうれしい」と言い、「Ruego del Fuego」の説明で「Buena Vista Social Club を聴いて」と書くのを見ると、細野晴臣、大滝詠一など、音楽を共有し、好きな作品を薦めるミュージシャンを思い出します。クリエイター以外に、音楽ファンという立場も重んじる誠実さに魅せられます。その二つの立場の生む面白さには、連綿と続く文化の伝統があるようです。また DTM と同人音楽の環境にも関係します。私の知る中国の投稿企画の主催者も、制作経験の共有を奨励し、多くの人がサイトで制作談を発表し、着想の源を語ります。
L:「好きなミュージシャンが影響を受けたミュージシャン」を聴いていくという楽しみ方を自分がやっていたということもあるため、自分も好きなミュージシャンを積極的に公開しています。
自身の中でより大きな割合というと、あくまでリスナーの側面が大きいかもしれませんね。音楽を聴くという大きな趣味の中に、創作があるような気がしています。 そして、自己表現の欲求という思いは乏しいと思います。中にはRoy's Anthemのような曲があるので、そういう気持ちが全くないわけではないですけどね。それよりかは、自分の作った音楽を通じて、自分が好きなスタイルやミュージシャンを他の人に共有したいという気持ちの方が強いですね。Lenkeleの音楽を通じてアフロビートにハマった!なんて人が現れたとしたら、これ以上ない喜びです。
U:なるほど、よく分かりました!Lenkeleさんの音楽だけがきっかけでAfrobeatを好きになったわけではありませんが、Roy Hargroveを知ったのは、あなたの音楽や紹介がきっかけでした。彼の音楽はとても好きですし、ほかにもあなたが紹介してくれた多くのミュージシャンを気に入っています。こうして、自分の好きな音楽家がどんな音楽から影響を受けてきたのか、その源流を遡っていくこと自体も、私はとても好きなんです。
最後に、最も好き、または最も影響されたアルバムを数枚薦めてもらえますか。理由も少し教えてもらえれば、この推薦リストをもっと多くのリスナーへ届けます!
L:はい。とても長くなりそうなので、よく考えます。
(インタビューは2026年4月)
Lenkele の推薦アルバムリスト
1997

伝統的なキューバ音楽を、伝統のままに演奏した1枚。間違いなく私にルーツミュージックの魅力を教えてくれたミュージシャンの1つです。ラテンの世界ではもはや教科書的な1枚ですが、だからこそラテン音楽に興味がある人にはまず聴いてほしい。サルサでよく聴くようなピアノのモントゥーノ14や、分厚いホーンセクションが聴こえてこない感じが逆に硬派でかっこいいです。ちなみに私のラテン系楽曲にしばしば出てくる女性の名前「Tula」は、3曲目の「El Cuarto de Tula」に由来します。
Nubiyan Twist - Freedom Fables
2021

UKジャズやアフロ15 のシーンで筆頭的存在になりつつあるNubiyan Twist。どのアルバムも素晴らしいのですが、私が最も好きなのはこのアルバムです。現代的なセンスと、アフロビートの本来持つ魅力を最もうまく融合しているグループの1つだと思っています。アフロビートのいなたさが苦手という方には、彼らが作るような洗練されたアフロビートをまずはおすすめしたいです。また、このアルバムは彼らの他の作品に比べるとアフロ要素が比較的控えめな感じがあり、その代わりに差し込まれる都会的なR&B楽曲がこれまたセンス抜群でかっこいい!
PJ Morton - Gumbo Unplugged
2018

ブラックミュージックの魅力が詰め込まれた1枚!ソウル、ゴスペル的な音楽をアコースティックなバンド編成で演奏するライブアルバム。ライブならではの熱狂と観客のピースやハピネスがこちらにも伝わってくるようで、全て聴き終わったころには倦んだ心が救済されるような心地を覚えます。真に彼らの文化に生きるわけでもない自分には想像することしかできませんが、教会での礼拝で救われている人の心はこんな風なのかと考えたりします。それくらいエネルギーを持った作品です。トランペット吹きとしては、2曲目「Claustphobic」でのKeyon Harroldのソロにハートを撃ち抜かれました。
黒田卓也 - Rising Son
2014

日本を代表するトランペット奏者、黒田卓也さん初のブルーノートリリース作。黒田卓也さんは私が最も好きなトランペット吹きの1人です。彼の音楽性、音色、人間性に至るまで、とても憧れ尊敬しています。1曲目「Rising Son」は何度彼のライブに足を運び、そのイントロが流れる瞬間に声を上げたことかわからない。これからのセッションスタンダードになってもおかしくないくらいの曲の強度だと思っています。ワクワクするイントロ、キャッチーなメロディの良さ、シンプルな曲構成…こういう曲を書きたいんだよなあ。そして2曲目「Afro Blues」は、今思えば私が初めて能動的に触れたアフロビートだと思います。曲のかっこよさはもちろんですが、ギターのリオネル・ルエケのギターの音がたまらなく好きで…。そして10曲目「Promise in Love」は日本盤のみで聴くことができます。彼の盟友であるボーカル、ホセ・ジェイムスのアルバムに収録されていた曲ですが、このアルバムではアレンジされており、よりロマンチックに聴こえます。
本段重复
Red Hot Org - Red Hot + Riot
2002

アフロビート創始者であるFela Kutiへのトリビュートアルバム。 多数の黒人ミュージシャンが参加し、Fela Kutiの楽曲を多角的に再解釈しています。 とにかく4曲目「Shuffering + Shmilling」を聴いてください! アフロビートに乗るラップはなぜこんなにもかっこいい…。 ありえない豪華メンバーで演奏される6曲目「Water No Get Enemy」にも注目です。 才能が渋滞を起こしていてちょっと面白いです。
King Curtis - Live at Filmore West
1971

ソウル、ファンクのライブアルバムから1枚。1曲目の「Memphis Soul Stew」の圧倒的開幕感!ライブはこうでなくちゃ!何回聴いたことかわかりません。コーネル・デュプリーのギターのカッティングがずっとかっこよくて気持ちいいので大音量で聴いてください。サックスのキング・カーティスは、四の五の言わずひたすらかっこよくわかりやすいソロで客のテンションを煽ってくれる感じが合あって大好きです。小細工もひけらかしも一切なし。こういうプレイングを聴くと心がスカッとします。
Common - Like Water for Chocolate
2000

言わずと知れた名盤ですがとても影響を受けたので紹介させてください。ジャズ、ヒップホップ、ネオソウルが交わるブラックミュージックの汽水域16を泳いでいるような1枚。鳴っている音全てが気持ちよく、Commonの声がかっこいい…。そしてRoy Hargroveのトランペットは、このアルバムを通じて、ジャズの外に広がる遥かに広い景色を私に見せてくれました。愛と感謝しかありません。
Weedie Braimah - The Hands of Time
2021

今もっとも色んなミュージシャンの後ろでジャンベを始めとしたパーカッションを叩いている、ガーナ生まれのジャンベ奏者、Weedie Braimahの初リーダー作。太鼓の音がこれでもかと入っており、パーカッション好き必聴の1枚です。西アフリカの伝統音楽の血を限りなく色濃く残しながら、現代のブラックミュージックと融合して昇華されたサウンドは、いわゆるアフロビートとはまた違う形で彼らのソウルを垣間見せてくれる気がします。
Bo Dollis & The Wild Magnolias - I'm Back...at Carnival Time
1990

ニューオーリンズの謝肉祭で演奏されるストリート音楽、マルディグラ・インディアン・ミュージック。各々が自由に歌い、声を上げていて、エネルギーに満ち溢れた音楽です。音楽はこんなにも自由で楽しいんだということを教えてくれました。楽しくなってきたら彼らと一緒にコールアンドレスポンスすることをおすすめします。彼らと一緒に踊り歩いているような気分になれます。
aja monet - when the poems do what they do
2021

スピリチュアルなフリージャズをバックに紡がれるポエトリーリーディング。規律を取り払った音楽は、時に整頓されたアンサンブル以上の説得力を持って魂に訴えかけてきます。無秩序に迫りくる音の奔流に圧倒されてください。そしてChief Adjuahのトランペットが最高です。彼の持つサウンドは大地の咆哮そのものだと信じています。
注
Afrobeat は中国では「非洲节奏」と訳されることが多い。ナイジェリアのトランペット奏者・バンドリーダー Fela Kuti が1960年代末に創始し、地元のヨルバ音楽、ファンク、ジャズなどを融合した様式。2000年ごろ興った Afrobeats(中国では「非洲节拍」とされることが多い)は、本稿の中心となる Afrobeat とは大きく異なる。
DTM(Desktop Music)は、パソコンを核とする音楽制作の概念と実践。この語は通常、さまざまな生楽器の録音を土台とする音楽と区別するために使う。
Afro-Cuban music はアフロ・キューバ音楽と訳せる。スペインと西アフリカの伝統音楽から、キューバで生まれ、発展した一連の様式の総称。
DAW はデジタル・オーディオ・ワークステーション、つまりパソコンで音楽を作るソフト。
整然とした MIDI にずれや誤りを増やし、より人間らしく調整すること。
ここでは、どのエンジンによるものも含め、合成音声音楽全般を指す。以下も同じ。
20世紀末にキューバのハバナで成立した、多くの伝説的な民間のミュージシャンからなるグループ。
編注:同様の言葉遊びは Lenkele の他の題にもある。「Bongo Bronco」の Bongo はボンゴ、Bronco は野生馬で、曲中の野性的なボンゴのグルーヴを描く。「Ruego Del Fuego」はスペイン語で火の祈願を意味し、Buena Vista Social Club の「El Cuarto de Tula」へ敬意を示す。
質問者はここで、L が以前使った原語「本場の」を添えた。
すべてのアフリカ音楽ではなく、ここでは Afrobeat と Afro-Cuban music を指す。
訳注:日本語の原文は「キメ」。曲中で瞬間的に止まり、すべての楽器が同じフレーズを演奏すること。
Newen Afrobeat は2009年、チリで結成された Afrobeat バンド。Newen はマプチェ語で力強いという意味。Nubiyan Twist や黒田卓也より確かに伝統的だが、アンデスの色も添える。
Highlife は1920年代のガーナ沿岸に起源を持ち、西洋のブラスバンドの楽器とリズムを、伝統的なアカン音楽、ダゴンバ音楽と融合した様式。50年代前後、西アフリカで広まり、ジャズ、スウィング、カリブのカリプソがこの時期の Highlife に影響した。
サルサなどで、ピアノやギターがシンコペーションのアルペジオや和音を反復する、特定のリズムのテクスチュア。
ここと以下の Afro は、ともに Afrobeat を指す。
河口でできる、海水と淡水が混じる水域。