直観の計算と感情の寸止め

翻訳・校閲1110ChatGPT

インディー/同人向け・特殊な拍節の鑑賞と作曲の手引き

文:s62

云南山歌研究会、長沙
連絡先:seahore@whu.edu.cn

4/4拍子に、せいぜい2/4、3/4、6/8拍子を加える。これらは十二平均律と同じく、あまりに身近で、しかも十分に役立つ。そのため多くの人は、通常とは異なる拍節でどんな感情を表せるか、わざわざ探ろうとしない。

しかし音楽産業の片隅では、才能ある作り手たちが芸術音楽のリズム変化の技法をポップミュージックと結びつけ、その経験は、よく知られたジャンルの必須要素にもなってきた。プログレッシヴロック、twinkle emo、マスロックなどがそうだ。Electronica、実験的電子音楽、サイケデリックロック、ポストロック、メタル、クールジャズ、現代のフュージョンでもよく聴かれる。特殊な拍節は日本のポピュラー音楽にも広くあり、日本のロック、ボカロ、ゲーム音楽(特に戦闘BGM)、音楽ゲームの曲などで珍しくない。

本文では、読者が五線譜を読めると想定する。実際には、すべての譜例を省いても、説明とリズム・拍節への感覚的な理解だけで、特に支障はないだろう。

直感的に示すため、本稿では正規の記譜法を厳密的に使わない。

本稿はCC0で提供する。著者は本稿をパブリックドメインに置き、世界各国の著作権法に基づく権利を、法律で認められる範囲ですべて放棄する。許可を求めずに複製、改変、配布、翻案でき、商用にも利用できる。

一般に、小節内の強拍と弱拍の位置には決まりがある。4拍子なら強—弱—中強—弱だ。聴き手は音楽経験を通じて強弱の感覚を身につけ、アクセントが強拍に置かれることを期待する。アクセントが強拍からずれると、実際に鳴る音と聴覚経験との間に食い違いが生まれる。その食い違いの中に、新しい美的対象が現れる。

よく知られたリズムのグルーピングの一つが、アフリカに起源を持ち、ラテン音楽で広く使われるTresillo、いわゆる3+3+2のリズムだろう。ここ十年の欧米のポピュラー音楽では使われすぎて陳腐にもなったが、このリズムが持つアクセントの移動の性質には、まだ探る余地がある。これを基に、より大きな楽曲構造にも同じ考え方を広げれば、新しい聴感を生み出せる。

たとえばPSYQUIがみかん汁に作った曲「Pallet/パレット」1の冒頭では、4拍子の2小節(4分音符8個)をTresilloで分け、さらに3+3+2の「3」のなかで16分音符単位のアクセントの移動を行う。つかみどころのない新鮮な感覚があり、その後のAメロの3拍子と拍の挿入(6.3.2参照)を合わせて聴けば、より味わい深い。

譜1-1 原稿譜例

「Pallet」冒頭のピアノ
(上の数字は次のアクセントまでの拍数。運指ではない)

ある小節の中で、その小節とは異なる拍子に従って演奏する技法を、ポピュラー音楽では一般にリズムのグルーピングと呼ぶ。これはアクセントの移動の特殊な実践で、広く使われている。甲に乙を重ねるとは、甲の拍子の小節の中で、乙の拍子に従って演奏することだ。反復フレーズの末尾に乙の1小節分に満たない部分が残れば、その部分をまとめたり、切り詰めたりしてよい。二つの拍子のアクセントが交錯することで、異なる拍節の衝突が表れる。独特な聴感はそこから生まれる。

冒頭など、ほかの音がリズムを示さない場面では、拍子の衝突を感じさせるのは、フレーズ末尾のまとめ方や切り詰めだけだ。聴き手はフレーズが終わるまで、重ねられた側の拍子で進んでいると思い、末尾で初めてリズムのグルーピングだと気づく。そのため、さらに先を読みづらい感覚になる。MyGO!!!!!「影色舞」2の冒頭のギターは、アクセントを5+5+6に配置した例だ。初めて聴く人は、ドラムが入るまで拍をつかめないかもしれない。

譜1-2 原稿譜例

「影色舞」の最初の2小節におけるギター

編曲でのアクセントの移動は、リズムのグルーピングのように同じ型を何度も繰り返す必要はなく、もっと自由に置ける。頻繁な位置の変更がどんな感覚を生むか知りたいなら、toeの「everything means nothing」3の冒頭を聴き、前後に漂うアクセントの変化を捉えてみてほしい。

譜1-3 原稿譜例

「everything means nothing」冒頭のリズム

この長いイントロのドラムでは、ほぼ2小節ごとにスネアを強く打つ位置が変わる。toeのドラマー柏倉隆史は、聴き手にリズムを退屈だと思わせる暇を与えない。

ポリリズムとは、一言でいえば、異なる楽器がそれぞれ異なるリズムに従うことだ。この技法で、聴き手のリズム感覚を揺さぶることができる。実際に聴くと、全体をまとめて捉えるか、一つのリズムに集中するかによって、印象が変わることにも気づくだろう。つまり、ポリリズムの音楽には、複数の美的な見方や感じ方がある。

1.1節ではリズムのグルーピングを紹介した。厳密な定義に従ってアクセントの移動の章に置いたが、「ある拍節の枠に、別の拍節の音符を重ねる」という説明のほうがわかりやすく、ポピュラー音楽の制作にも役立つだろう。リズムのグルーピングでは、重ねた動機もフレーズの終わりで区切られ、また最初から始まる。フレーズの始まりと終わりは、元の拍節で決まる。

この区切りを取り払い、リズムのグルーピングをより大きな楽曲構造へ広げると、ポリメーターになる。異なる楽器が、同じテンポのまま、長時間それぞれ異なる拍子で演奏するのだ。楽器ごとに強拍と弱拍の規則が異なることになる。複数の拍子が並行していても、通常は優勢な拍節が一つある。それは主に、音がよく目立ち、強いグルーヴを持つ楽器によって決まる。

toeの「Because I Hear You」4は、その典型と言える。ドラムと1本のギターは4拍子、もう1本は3拍子で演奏する。ドラムと4拍子のギターが目立つため、全体の感覚は「4拍子のなかの3拍子」であって、その逆ではない。

譜2-1 原稿譜例

「Because I Hear You」01:19からの2本のギター

もっとわかりやすくするには、それぞれの拍子で別々に記譜し、音符と小節線を実際の時間に沿ってそろえる方法もある。

譜2-2 原稿譜例

譜2-1「Because I Hear You」の最初の3小節を、それぞれの拍子で記譜したもの

こうすれば、細部も目で捉えやすくなる。3拍子のギターは、自分の拍子で毎小節繰り返す。4拍子のギターの3小節と、3拍子のギターの4小節は同じ長さだ。12拍、つまり3と4の最小公倍数ごとに、両者の小節線と強拍が再び重なる。

連符

簡単にいえば、連符とは、ある数の音符が占める時間を、別の数の音符で均等に分けることだ。三連符は非常によく使われる。ここで関心を向けたいのは、五連符や七連符など、あまり使われない連符である。

rN「opia」5の後半では、ドラムに五連符と七連符が多用され、輪郭のつかみづらい、不安定なリズムを生んでいる。同時に、音楽ゲームの曲としての難度も高めている(収録されているゲームで、ぜひ試してみてほしい)。

現代のリズム体系では、このような連符を A という比率で構成することもできる。これは、B拍分の時間内にA個の音を均等に演奏することを示す。たとえば 7:4 は、4拍分の時間に7個の音を均等に演奏することを意味する。ポピュラー音楽ではこのような連符の用例はまだ少ないため、読者にはぜひ積極的にこうした連符の構成を試してみてほしい。

ポリテンポの音楽では、楽器ごとに演奏のテンポが異なる。テンポ同士が単純な比になる例を除けば、Steve Reich「Piano Phase」6が最も有名だろう。2台のピアノが、ごくわずかなテンポ差をつけて同じフレーズを繰り返す。これにより新鮮な聴覚体験が生まれ、数学的な構成がもたらす美的効果も感じられる。ポリテンポは今も実験の可能性が大きいポリリズムの概念であり、現代のポピュラー音楽ではあまり見られない。

同じ時間幅のポリリズム

同じ時間幅のポリリズムとは、同じ時間内に、それぞれ異なる数の音を均等に演奏することだ。先に述べた連符も、当然これに含まれる。また、ポリテンポの特殊な場合とも考えられる。楽器のテンポ同士がちょうど比例していれば、こうしたポリリズムが生まれうる。単にポリリズムという場合、通常はこれを指す。

実際に演奏するときは、音の数の最小公倍数に当たる細分を使って、演奏の感覚を鍛えられる。

通常、単位時間内に二つの楽器がそれぞれ奏でる音の数によって、甲対乙のリズムと呼ぶ。次の譜例のRadiohead「Daydreaming」7は2対3だ。

譜2-3 原稿譜例

「Daydreaming」のピアノの一節

2対3のリズムは、特にHemiolaとも呼ばれ、クラシック音楽でもよく使われる。

ほかの型の例も多い。toeの「all I understand is that I don’t understand」8の冒頭は、ハイハットとギターの3対4だ。2本のギターが8拍で左右のチャンネルに交差し、16分のハイハットと密に織り合わさって、拍節の知覚をさらに散らす。

先に説明したポリメーターと同じく、同じ時間幅のポリリズムにも、聴き手の音楽的直観にとって優勢な拍節が一つある。全体の拍節は、それを基準に捉えるべきだ。したがって、甲対乙と乙対甲は、まったく同じリズム・パターンではない。

まとめとして、強拍・弱拍と音価を示すわかりやすい図で、第2節の概念を比較し、区別しよう。

図2-1 原稿譜例

各種ポリリズムの強拍・弱拍と音価の比較。
灰色は強拍、白は弱拍。マスの幅は1拍の相対的な音価を表す。
(A) ポリメーター(等速のポリリズム) (B) ポリテンポ (C) ポリリズム(小節の長さが等しいポリリズム)

奇数拍子(混合複合拍子)

一般に奇数拍子とは、変則的な拍子全般を指す。5拍子、7拍子などが典型なので、こう呼ばれる。

ただし、ここでいう「奇数拍子」は、拍数が奇数の拍子だけを指すわけではない。逆に、奇数のものをすべて含むわけでもない(たとえば3拍子)。正式には混合拍子という(先のポリメーターとは区別すること)。わかりやすさと説明の便宜を優先し、中国語の「奇」には「珍しい」という意味もあることから、以下では混合拍子を奇数拍子と呼ぶ。

奇数拍子にあまりなじみがなければ、付録9の、安定した奇数拍子の部分を持つ曲を聴いてみてほしい。独特の聴感がつかめるだろう。

拍子の分け方

小節内の強拍の位置に応じて、奇数拍子は異なる単拍子や単純な複合拍子に分けられる。以下では5拍子と7拍子を例に、分け方と譜例を示す。作曲の考え方も少し分析するので、参考にしてほしい。

5拍子の分け方

(1) 3+2

5拍子は、3拍子に2拍子が続く組み合わせとして捉えられる。

5拍子のジャズ曲「Take Five」9を聴いて、拍を取ってみよう。

譜3-1 原稿譜例

「Take Five」の基本となるピアノの動機

ここでの拍の強弱は強—弱—弱—中強—弱で、3+2の組み合わせになっている。

最初の3拍分を、二つの強拍を持つ6拍子として扱う場合もある。つまり、3/4の単拍子の感覚ではなく、6/8拍子だ。あとの2拍と合わせると、全体を10/8拍子と記譜できる。

toeの「A Desert of Human」10の冒頭リフを例にしよう。

譜3-2 原稿譜例

「A Desert of Human」冒頭3小節のリフ

ドラムと合わせると、最初の2音の6/8と、後の4分音符2個の2/4でできていると聴き取れる。a picture of herの「now I’m weaving hundred words」11の冒頭リフは、8分音符の水準で強弱の変化をもっとよく示している。注意して聴いてほしい。

譜3-3 原稿譜例

「now I’m weaving hundred words」冒頭のリフ

この10拍子では、拍の強弱は強—弱—弱—中強—弱—弱—中強—弱—中強—弱となる。

これを基に、先のアクセントの移動やポリリズムなどで、より複雑に扱える。PC弾幕ゲーム『东方红魔乡(東方紅魔郷)』のEXボス曲「U.N. オーエンは彼女なのか?」12では、最初の3拍は4拍子に3拍子を重ね、後の2拍は三連符となり、さらにリズムを乱して、非常に緊張した分裂の感覚をつくる。

譜3-4 原稿譜例

「U.N. オーエンは彼女なのか?」の最初の2小節

(2) 4+1

5拍子は、4拍子のあとに独立した1拍を加えたものとも捉えられる。

TVアニメ『孤独摇滚!(ぼっち・ざ・ろっく!)』のEDの一つ「カラカラ」13で、強拍の位置に注意しよう。

譜3-5 原稿譜例

「カラカラ」の最初の2小節におけるリードギター

この5拍子の強弱は強—弱—弱—弱—中強だ。最後の強拍が短いため、次の小節へつながるときに少し刺激が生まれる。これが、4+1という分け方の聴感上の大きな特徴である。

7拍子の分け方

(1) 4+3

7拍子は、4拍子に3拍子が続く組み合わせとして捉えられる。

American Football「The Summer Ends」14の冒頭を聴いてみよう。

譜3-6 原稿譜例

「The Summer Ends」冒頭の2本のギターによるリフ

このリフでは、拍の強弱は強—弱—中強—弱—中強—弱—弱となる。

(2) 3+4

7拍子は、3拍子のあとに4拍子を続けたものとも捉えられる。拍の強弱は強—弱—弱—中強—弱—中強—弱となる。3+4の例は、下の譜3-8に示す。

(3) 3+3+1

7拍子は、3拍子を二つ続け、最後に独立した1拍を加えたものとも捉えられる。

C418がゲーム『Minecraft』のために作ったBGMの一つ、「Haggstrom」15を例にしよう。

譜3-7 原稿譜例

「Haggstrom」冒頭4小節

この7拍子の強弱は強—弱—弱—中強—弱—弱—中強だ。この分け方は、8拍のTresillo(3+3+2)から最後の1拍を除いたものとも考えられる。

PC用弾幕シューティングゲーム『东方地灵殿(東方地霊殿)』のEXステージのボス曲「ハルトマンの妖怪少女」16を分析してみよう。冒頭はすべて7拍子だが、小節ごとに強拍の相対的な位置が変わる。

譜3-8 原稿譜例

「ハルトマンの妖怪少女」の最初の4小節

この反復部分では、1小節目は3+4、2小節目は3+3+1に分かれる。この変化によって、7拍子の緊張感がさらに増す。

(4) 2+3+2

宇宙コンビニの「セピア色の車窓から」17の冒頭を聴いてみよう。00:18に始まる第9小節からは、次のパターンになる。

譜3-9 原稿譜例

「セピア色の車窓から」第9小節以降のパターン

ここでの拍の強弱は強—弱—中強—弱—弱—中強—弱となる。

空白の拍

空白の拍(略して空拍)は、音楽用語では休止、つまり音の一時的な停止である。実際の扱いでは、非楽音(一定の音高をもたない音)があってもよい。

休止はもちろんあらゆる音楽作品にあるが、ちょうどよい瞬間に持ち出し、独特のグルーヴを生むにはどうするかは、十分に検討する価値がある。以下ではその問題を論じる。

短い空拍

編曲に短い空拍を適度に取り入れると、曲にメリハリが生まれ、グルーヴも際立つ。特に、サビなど曲が大きく盛り上がるパートの直前に置くと、その後の展開に爆発力を持たせることができる。こうした空拍はポップスであまりにも多用されているため、やや使い古された手法にもなっている。より新鮮な効果を狙うなら、あまり使われない位置に短い空拍を入れたり、ほかのリズム技法と組み合わせたりしてみるとよい。

sasakure.UKを中心とする有形ランペイジの「α煩悩」18には、短い空拍を使う面白い変拍子がある。00:34から、小節の最後に空拍を1拍加え、5/4にする。この突然の空拍は、小節間の連続した進行を遮り、つながった歌詞(「傷」(きず)という二音節など)さえ強引に分ける。空拍には音のサンプルが少し入るだけで、音声を無理に裂いて1拍の空気を注ぐような、強い切れ目と対照をつくる。

譜4-1 原稿譜例

「α煩悩」の00:43からの2小節を、声で示したもの

ここで実際制作中の技法を一つ挙げる。連続した演奏の短い空拍を直接切り、ミュートすれば、断片化した感じを出せる。「α煩悩」の空拍もこう処理され、音声上で空拍を削れば、前後の音がつながるとわかる。ねこぼーろの「戯言スピーカー」19冒頭のピアノも聴いてほしい。

長い空拍

拍節を際立たせる短い空拍とは違い、長い空拍では、一定時間リズムを示す音の変化がないため、かえって拍節を曖昧にする。

第3節で触れた「セピア色の車窓から」の冒頭にも、長い空拍がある。私には、その長さが、多くの聴き手が拍を正確につかめなくなり始めるところに、ちょうど重なるように思える。日本のマスロックからもう一つ例を挙げると、ハイスイノナサ「少年の掌」20の冒頭では、三種の音が見事に組み合わされている。まずシンバル、ギター、ベースが短く力強く、同時に鳴る。そのあとに長い空拍が続く。全体を三回繰り返すと、16分音符で駆け、跳ねるピアノが加わる。この動と静、疎と密の対比が、精巧で独特なマスロックの響きを作っている。

譜4-2 原稿譜例

「少年の掌」の冒頭部分

長谷川白紙が映画『月租男朋友(月極オトコトモダチ)』のために作った主題歌「ナニカ」21の冒頭も、似た発想でできている。

冒頭や静かな部分に長い空拍を置く場合とは別に、聴き手が次の展開を期待するところで突然挟むと、少し戸惑いを与え、流れから飛び出す感覚を生む。イマニシ「心無」22では、00:32の安定した進行の途中に、長い空拍が入る。

前ノリ・後ノリ

走り・もたりは、演奏や歌唱において、音のタイミングが不安定になることをいう。音が想定または指定されたタイミングより早く出ることを「走る」、反対に、実際の発音が予定より遅れることを「もたる」という。

通常、こうしたずれは否定的に語られる。拍が定める時点に音が鳴らないことは、多くの音楽では全体の効果を損なう大きな問題だからだ。音楽の練習でも、タイミングを正確に制御する力を高めることが目的の一つとなる。そのため、どちらも避けるべきものとされる。

だが、創作の観点から見れば話は違う。意図的に音を前後へずらすことで、独特なグルーヴを作れる(こうした場合、前ノリ・後ノリという言い方が多い)。安定したリズムの均等さ、落ち着き、抑制を取り払い、理性的な感覚からさらに離れ、聴き手の特別な感情を引き出すこともできる。

スウィング・リズム

この記事の読者なら、すでによくご存じだろう。スウィング(swing)は、ジャズの魂として知られる独特なリズムだ。音楽に、思わず体を揺らしたくなる感覚を与える。

典型的なスウィング

ジャズの典型的なスウィングでは、等しい長さの二つの音符を、三連符を基にした、前が長く後ろが短い形で演奏する。

譜5-1 原稿譜例

典型的なスウィングの型

ジャズの記譜では、譜5-1の前の小節にある連続した8分音符は、通常の記譜におけるあとの小節と同じ意味になる。したがって、ジャズの楽譜で8分音符が続くときは、原則としてスウィングで演奏する。

8分音符だけでなく、4分音符や16分音符などでもスウィングはできる。これは、特定の音楽の時間尺度を、記譜者がどう捉えるかの違いにすぎない。

スウィングの値

典型的なスウィングから、さらに考え方を広げられる。二つの音のうち、あとの音を三連符の3番目の位置に置く必要はない。どれだけ遅らせるかは、自由に定義し直せる。

あとの音を遅らせる度合いは、スウィング値という分数で表せる。遅らせない場合を0、次の拍と重なるまで遅らせる場合を1とすると、典型的なスウィングは1/3、付点8分音符と16分音符を組み合わせたスウィングは1/2になる。負の値にも拡張でき、その場合は音を遅らせず、前倒しにする。

主要なDAWや、ソフトウェア/ハードウェアのシーケンサーは、ほぼすべてスウィング値の設定を備えている。電子音楽の制作で、MIDI音符のスウィングをまとめて、自動的かつ細かく調整できる。

自由な前ノリ・後ノリ

自由な前ノリ・後ノリとは、意図的に拍の意識を緩め、音を自由に前後へずらして演奏することだ。レゲエやラップなど、自由でくつろいだ雰囲気の音楽によく見られる。これらの音楽でよくいう「layback」も、音を自由に後ろへずらす実践の一つである。

自由な前ノリ・後ノリは、後で述べる自由なリズムと区別しなければならない。前者は、一定のグルーヴを保ちながら、タイミングに自由で微妙なずれを加えるものだ。後者は、もっと大きな時間尺度で、演奏者自身の意志に従ってリズムを組み立てる。その変化は、ときにかなり大胆になる。

転拍は、現代のポピュラー音楽で、聴き手の音楽的直観を最も刺激する拍節の技法かもしれない。音楽史を通じて見ると、安定した拍子で進む音楽が大部分を占める。現代のポピュラー音楽の聴き手も、そのほとんどが、一曲を通じて同じ拍子で進む音楽に慣れている。

こうした状況で創作に転拍を取り入れれば、従来の発想の型を抜け出し、新鮮な聴感をいろいろと生み出せる。以下では、具体的な方法と譜例を紹介する。

セクションごとの転拍

曲のセクションごとに異なる拍子を使うのは、比較的よくある方法だ。

ハチ「Mrs.Pumpkinの滑稽な夢」23は主に4拍子だが、間奏で3拍子に変わる。私の印象では、暗い雰囲気の4拍子のボカロ曲が、間奏で3拍子、つまりワルツの拍節へ移る例は比較的多い。また、『Girls Band Cry』のオープニング曲「雑踏、僕らの街」24では、サビ前の「くだらないけど/仕方ないでしょ/僕らはもう」の三句で、4拍子から3拍子に変わる。最後の「歩き始めたんだ」で4拍子に戻り、あとのサビも同じ4拍子になる。

一時的に拍子から外れること(離拍)

安定していた拍子から一時的に別の拍子へ移り、ほどなく元の拍子、あるいは別の安定した拍子へ戻ることを考えよう。トナリティ和声の「一時的転調」にならい、ここでは「離拍」と呼ぶ。ただし、これはまだ広く認められた名称ではない。

クリエイターが4小節の動機の最後の小節で拍子を変えるのは、よくある手法だ。こうした「離拍」は、強いグルーヴを生む。ボカロのフュージョン曲「幾望の月」25では、各所に転拍が組み込まれている。冒頭の5-5-5-6の部分を見てみよう。

譜6-1 原稿譜例

「幾望の月」の冒頭部分のピアノ

拍を抜くことと加えること

拍の削除と挿入は、「離拍」の作曲技法として特によく使われる。クリエイターに参考にしてもらうため、ここで別々に説明する。

一般的な「離拍」に対し、拍の削除と挿入は、特に次のような場合を指す。挿入した拍が小節内で目立ち、独立している場合。また、削除した拍を、和声やグルーヴの強い方向性から容易に補える場合だ。つまり、削除や挿入を行った動機には、元になる安定した拍子の形がある。拍子が変わる小節の音を、その拍子全体に合わせて設計した場合は、通常、削除や挿入とは捉えにくい。たとえば譜6-4の4小節目がそうだ。

拍を抜く

再び神主の曲を例にしよう。PC用弾幕シューティングゲーム『东方星莲船(東方星蓮船)』の5面道中曲「魔界地方都市エソテリア」26は、冒頭で次のような5-6の一節を繰り返す。

譜6-2 原稿譜例

「魔界地方都市エソテリア」の最初の4小節を編曲したピアノ譜

この動機の繰り返しを聴くと、聴き手は冒頭の数音の強弱を手がかりに、無意識にこれまでの音楽経験を参照する。そして、次の譜例のように整った6拍子が続くことを期待する。

譜6-3 原稿譜例

「魔界地方都市エソテリア」の冒頭で聴き手が予想する形。
×の拍は、あると予想されるが、実際には削除されている。

実際の曲は、1小節目の最後の1拍を削った形なので、5-6の一節となる。二つの小節がよく似ているため、聴き手はまず驚き、そのあと音楽的直観の中で、削られた拍を補う。この削除によって、元の動機は聴き手に新たな感情を呼び起こし、注意も引きつける。

the cabs「キェルツェの螺旋」27の冒頭にも拍の削除がある。ただし、動機を一回おきに繰り返す際、2小節目で1拍を削る。

譜6-4 原稿譜例

「キェルツェの螺旋」の冒頭部分のギターリフ

拍を加える

拍の挿入の仕組みは、上の説明から類推できる。

sasakure.UKとDECO*27が初音ミクの5周年に共同制作した「39」28の冒頭も、拍の挿入を使った3-3-4の動機と捉えられる。3小節目の前半が最初の二つの小節と同じなので、3拍子の3小節の末尾に、1拍を加えたように聴こえる。あるいは、動機を4小節で捉える慣れに従えば、3拍子の4小節から最後の2拍を除いた形とも考えられる。こうして、譜例のように3-3-3-1という感覚が生まれる。

譜6-5 原稿譜例

「39」の冒頭部分のシンセサイザー

the cabs「二月の兵隊」29では、拍を挿入する位置も等間隔ではない。動機の3回目、6回目、8回目の繰り返しでだけ、2小節目に拍を挿入する。

譜6-6 原稿譜例

「二月の兵隊」の冒頭部分のリードギター

フレーズを超える階層への拡張

転拍の考え方は、小節やセクションなど、フレーズを超える階層にも広げられる。たとえば、あるセクションに1小節を加える方法がある。「雑踏、僕らの街」の冒頭は9小節あり、楽器が入る最初の7小節と、人声だけのあとの2小節に分けられる。

規則的に進むセクションから、突然2、3小節を省いて次へ進むのも、新鮮な技法だ。音楽の時間構成をより大きな階層で捉えれば、対称性をなくすほかの方法も探れる。

拍節のツリー

ここで、複雑な転拍の分析と作曲に使える方法を紹介する。コンピューターのデータ構造である木を参考に、ひとまず拍節ツリーと呼ぼう。フレーズ全体の拍数を、実際の音の強弱の配置と、自分の音楽的な理解に沿って、より短い単位へ繰り返し分ける。それらを時間の階層における包含関係に従って、木の形に配置すればよい。次の図は、「The Grid」30冒頭の反復フレーズを分析した拍節ツリーだ。

図6-1 原稿譜例

「The Grid」冒頭の反復フレーズの拍節ツリー

拍節ツリーは、特定のセクションの拍節を木構造で整理し、分析や参考に使うものだ。複雑な拍節を持つ音楽を作るための、効率のよい道具といえる。

テンポを変える

テンポの変化とは、その名のとおり曲の速度が変わることだ。これもよく使われる手法である。

テンポを半分にする

半分のテンポは、曲の速度を半分に落とす、よく使われる手法だ。サビや激しいセクションの直前で一時的に使い、大きな対比から強い緊張感を生む。ハチ「Mrs.Pumpkinの滑稽な夢」の2回目のサビ前、「山羊が何か企んで…」と歌う一節も、この処理を使っている。

セクションごとのテンポ変化

セクションごとのテンポ変化とは、曲のセクションごとに異なるテンポを使うことだ。急に変えても、徐々に変えてもよい。半分のテンポもこの一種だが、ややありふれていて、新鮮さが足りない場合もある。

イマニシ「無色」31では、テンポを徐々に変えている。間奏で少しずつ加速し、短い静けさを挟んで、速く爆発的な盛り上がりに入る。加速から爆発へつなぐこの形は、日本のemogazeバンドひとひらの有名なアルバム『つくる』32の同名のオープニング曲にもある。実はイマニシは、日本のemogazeバンドBlume Popoのギタリストで中心的なクリエイターでもある今西龍斗だ。そこで、「無色」と、同じタイプのバンドが同年に発表した曲との間に、交流や相互の影響があったかと考えている。

自由なテンポ

自由なテンポは、西洋音楽ではrubatoという。元のリズムを保ちながら、テンポを小幅に、自由に伸び縮みさせることだ。原則としてリズム構造は変えない。この技法を使う部分では、演奏者の意志に従ってテンポが流動的に変わる。

長谷川白紙「禁物」33では、片方のピアノが、テンポを絶えずわずかに伸び縮みさせている。もう片方のピアノや人声との間には、ポリテンポも生まれている。

自由なリズム

自由リズム(散拍)

作品によっては、演奏者が一部のセクションのリズムを完全に自由に扱い、楽譜の指定に厳密には従わないことを求める。通常、こうした部分では均等でない拍動を使い、音の強弱の配置も、単位となる拍の長さも固定しない。先に説明した自由なテンポより、リズムの組み立て方ははるかに自由である。

西洋音楽では、イタリア語のsenza misura / senza battuta(拍節なしに)や、ラテン語のad libitum(自由に)などが、こうした演奏を示す。中国の伝統音楽では散板や散拍子と呼ぶ。古琴の減字譜では、「散」の左上の部分である「艹」を記号にする。

自由リズムは本来、楽譜に指示を記し、演奏者が自由に扱う技法だ。一方、録音媒体やネットで再生する音楽では、拍子やテンポが変わることはほぼない。だが、録音された作品の拍節の動き自体に、規則をまとめにくい自由な特徴があれば、「自由リズム」という言葉を借りて呼ぶこともできる。

先験的リズムとは、まず拍節の概念をいったん保留し、クリエイター自身が音の強弱や軽重に何も期待しない状態で、音楽を生じさせることだ。そのあと、再演する必要があれば、記録を基に拍節を整理する。必要がなければ、そのままにしてもよい。

先験的リズムは、実際には音楽の作曲方法論である。形の定まった一節を自由に書くため、本稿で提案する方法であり、音楽そのものから取り出した概念ではない。したがって、この方法で生まれた一節も、明確な拍節やテンポの指定を使って記譜する。自由リズムのように「自由リズム」という指示だけを置き、具体的なリズム情報を示さないわけではない。両者にはもう一つ違いがある。自由リズムを指定する作曲家は、既存のリズムの知識を十分に意識したうえで作曲し、実際の演奏や録音のときだけ自由な拍子で扱うよう求めることができる。先験的リズムは作曲時の判断停止を、自由リズムは演奏時の判断停止を求めるのだ。

最初に述べた「音楽を生じさせる」には、さまざまな方法がある。聴覚の直観を気にせず、白紙の楽譜に目とペンを使って自由に書いてもよい。楽器や声で完全に即興し、録音してもよい。拍節を手がかりにせず音符イベントを生成するプログラムを設計することもできる。あるいは、意識を持たない外部の物体の動きで音符を発生させ、MIDI音楽を組み立ててもよい。つまり、先験的リズムを使った創作では、創作や生成の過程から、リズムについての予備知識をできる限り取り除く。先験的なあり方の中で、形が定まりながらも自由で新鮮で、正確に再現できる一節を得るのである。

奇数拍子の参考楽曲

5拍子

7拍子

謝辞

doze、花笺暄、苦以忧の三人に、特に感謝したい。本稿の表現や文章の問題を直すため、責任を持って力を尽くしてくれた。本稿に何らかの価値があるとすれば、三人の助けなしには実現できなかった。

注

1
2

MyGO!!!!!『迷跡波』,2023

4

toe『Hear You』,2015

5

rN, 2015

6
7
9
10

toe『Hear You』,2015

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19

ねこぼーろ,2011

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22

イマニシ,2024

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ハチ,2009

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なきゃむりゃ,2018

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イマニシ,2023

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ひとひら,2023

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