推薦者:苦以忧

2025.04.14
28m 49s
昨年、ジャズとブラックミュージックを中心とする合成音声の音楽レーベル「蛙円盤」が誕生した。最初のアルバム『蛙円盤01 Black Frog Walkin'』には、すでに少し名を知られていたごーぶすや駄菓子O型に加え、本稿で取り上げるLenkeleも参加している。このアルバムへの参加時も、ソロアルバム『Kafu Meets Love Beats』(以下『Kafu Meets Love Beats』)の発表時も、まだ「おぼろ(朧)」という名で活動していたが、現在は「Lenkele」に改名している。
「Lenkele」への改名は、実は今年三月のことだ。本人は、その理由を二つ挙げている。一つは、旧名と同じ名前がネット上に多く、検索しても見つけにくかったこと。もう一つ、より大きな理由は、「今の活動内容と、名前が与える印象がずれてきた」ことだ。「おぼろ(朧)」という名は、クリエイター本人の和風音楽への愛着から生まれた。ニコニコで歌ってみたの投稿を始めたときに、和風の印象を持つこの名をつけ、「飛梅」という和風の曲も発表している。だが、ジャズ、ヒップホップ、アフリカやキューバの音楽への関心が深まるにつれ、名前と創作内容の間に隔たりが生まれた。やがて「Cewe Lenkele Wecho」というマンデ音楽(Mande music)の歌1が、彼の目に留まる。心を奪われたこの曲の題名から取ったマンディンカ語の言葉が、思いがけず新しい名前になった。この名は、今の彼の好みを表している。アフリカやキューバの音楽、つまり西アフリカのリズムやグルーヴと深く結びつく音楽が、今後の作品では、より大きな割合を占めていくのだ。
『Kafu Meets Love Beats』は、Lenkeleの改名前に完成した。当時、ブラックミュージックを軸にしたアルバムを作ろうとはしていたものの、作りためた曲は、まだヒップホップとRnBが中心だった。生演奏を録音したトランペットは、Lenkeleの音楽の大きな魅力だ。彼はいつも、爽やかで遊び心のある旋律を奏でる。これは、よく用いる作曲法によるところが大きい。まず自分の納得のいくトランペットの旋律を吹き、それを土台に曲を仕上げていくのだ(すべての曲がそうではないが)。「Jammin', Dreamin'」では、トランペットがくつろいだ心地よい風景を描く。「Night Walk, Hi-De-Ho!」では、切り貼りしたループとしてスクラッチとともに現れ、よりヒップホップらしいコラージュの質感を見せる。「Blue Train Refrain」では、John Coltrane2の旋律をそのまま再現しながら、元のリズムを組み直す……。こうした工夫に引かれ、私は聴き続けたくなる。
ここまでの内容だけでも、アルバムには十分に音楽的な魅力がある。だが、「Kafrobeat」が完成して加わったことで、『Kafu Meets Love Beats』は、さらに人の踏み込んでいない新しい領域へ進み、より豊かで面白いコンセプトを持つようになった。
Lenkeleは「Kafrobeat」の歌詞に、「Afrobeat not, Kafrobeat!」と書いている。ナイジェリア生まれの正統的なAfrobeatではなく、合成音声の同人シーンで生まれた「可不のグルーヴ」なのだ(残念ながら、歌詞そのものにある音の掛け合わせの面白さを、私は訳しきれない)。その歌詞には、豊かな文化的借用と、同人創作ならではのネタ遊びがある。「Kafrobeat」にQUOTE9カレーうどんやQUOTE10丸佳浩が出てくるとき、この「思いついたことをそのまま書く」ような作りに、気まずくなるだろうか。それとも、思わず笑みがこぼれるだろうか。私には、これこそ文化的な引用を解きほぐし、ある音楽ジャンルの権威を引き下げるものに思える。遠い文化や音楽の要素は、高い棚に置いて仰ぎ見るだけの「高尚な芸術」である必要はない。自由に使い、ポップミュージックに取り入れられる、面白い要素でもあるのだ。
DTMでAfrobeatの響きを再現するのは難しい。コンピューターで作る音楽に合わせ、Lenkeleは重要な要素をいくつか残しながら、伝統的なAfrobeatとは異なる作りも選んだ。聴き手は作品のAfrobeatの「根」を感じ取りつつ、独自の要素にも気づける。見事なリズム隊がグルーヴを際立たせる一方、ブラス同士のコール・アンド・レスポンスは、彼が得意とする一本のトランペットに置き換えられる。ディレイを使って、同じトランペットの音を自分自身と対話させるのだ。さらに、コラの繰り返すアルペジオが、ファンクギターの役割を引き受ける。こうして、異なる形で似た効果を生み出している。「Let's go it on!」という歌詞に続く、楽器の合奏によるシンコペーションには、間違いなく胸が躍る。
「Kafrobeat」だけでなく、「Intro」と「Interlude」も、Lenkeleの広い視野を示す場だ。「Intro」はニューオーリンズの祭り、マルディグラ(Mardi Gras)に着想を得ており、「Interlude」は伝統的なブーンバップのリズムに、歯切れのよいカウベルを加える。「Kafrobeat」と「Seaside Night Suicide」のコンガ、ボンゴ、木の実の殻を使ったシェイカーや、「Such a Life」のティンバレスも、音楽の彩りを増している。これらの要素は、アフリカやラテンの音楽に対するLenkeleの愛着を改めて示す。ともに『Kafu Meets Love Beats』を豊かにし、より複雑なリズムや、土地の特色を持つ音をアルバムへ導き入れている。
「Roy's Anthem」は、LenkeleがRoy Hargroveを悼んで作った曲だ。ファンから憧れの人へ贈る、懐かしさと愛情のこもった告白でもある。Lenkeleはこう語る。「偉大なミュージシャンの音楽に憧れ、模倣から始め、やがて自分のスタイルを確立する。こうして、偉大な精神は後のミュージシャンへと受け継がれていく。音楽にある、この濃密な『継承』の要素に、心から敬意を抱いている」。曲は、でこぼこと揺れるヒップホップのグルーヴで始まる。トランペットは、ピアノと同じ旋律を並んで奏でるところから、声と呼び交わす形へと移る。これは、好きなミュージシャンを「完全に模倣する」段階から、「自分のスタイルを確立する」段階への、音楽の成長を象徴しているのだろうか。後半では、スキャットとトランペットが交互に現れ、絡み合う。憧れの人と自由に語り、演奏する想像のようでもある。「Play your shit!」という歌詞は、Royが生前、後進を支え、若いミュージシャンに「自分らしくやれ」と励ました姿に関わる。LenkeleはRoyの音楽と言葉から、その精神を受け取った。だから、自由に作ることが「Royの精神」の継承となり、「きっと意味はない、场違い?」(一定没有意义,不合时宜吧?)という歌詞の、自分への問いを解きほぐしていく。
「ひとりきりクリスマス」は、アルバムの中で少し収まりが悪い。Lenkeleは「スウィングもブラックミュージックの一種だから」と説明する。だが、ワルツを基調とするところが、ほかの曲との大きな違いとなり、アルバムの中では、やや違和感がある。それでも、「Seaside Night Suicide」と「Such a Life」は、アルバムをうまく締めくくる。前者は空気感を重視し、中心となる旋律が意外なところへ着地する。後者の明るい輝きは、アルバムを再び前向きな空気へ戻し、「Roy's Anthem」で伝えられた精神と響き合う。
和風からブラックミュージックへというLenkeleの好みの移り変わりは、トランペット奏者としての顔とも関わる。彼は好きなトランペット奏者を何度も聴き手に紹介し、Roy Hargrove、Chief Xian aTunde Adjuah、黒田卓也らから大きな影響を受けたことも、隠さず語っている。このアルバムでは、クリエイターであると同時に聴き手でもあり、好きな作品のさまざまな要素を曲に取り入れ、憧れの音楽家に敬意を表す。また、さまざまな媒体で、好きな曲や創作の着想源をよく共有している。そのおかげで、私たちは彼の作品がどこから来て、どう変わってきたのかを、垣間見ることができる。
「ブラックミュージックの汽水域を泳ぐ」。LenkeleがRoy Hargroveの作品を評したこの言葉は、彼自身の作品にもよく合う。Royの自由な創作の精神を受け継ぎ、より広い音楽の世界を探っているからだ。Lenkeleが合成音声の世界にもたらしたのは、Afrobeatやラテン音楽といったジャンルだけではない。地域に根ざす文化への思考や、豊かな音楽の要素を自由に借り、組み直す姿勢もある。「Kafrobeat」の歌詞のように、クリエイターも、その音楽も、QUOTE13どこから来たのかと問われる。多くの場合、返事はQUOTE14私たちにどうしてわかるだろうだ。だが、答えがなくてもかまわない。それによって、私たちの創作の自由が制限されるわけではないのだから。
注
マンデ人(Mande peoples)は、西アフリカでマンデ語派の言語を使う人々の総称で、マンディンカ人(Mandinka、マリンケ人Malinkeとも)、ソニンケ人(Soninke)、スス人(Susu)などを含む。マンデ音楽(Mande music)は、マンデ人によるさまざまな音楽の形を含み、コラはその重要な楽器の一つだ。
「Blue Train Refrain」冒頭のトランペットの旋律は、著名なジャズ奏者John Coltraneの最初のアルバム『Blue Train』に収録された、同名の曲から取られている。